耳鼻咽喉に関する病気の知識

耳鼻咽喉科の外来でよく診られる病気について簡単に解説してみました。
文章の中に出てくる解剖学用語については、簡単な解剖図を作ってみましたので参考になさって下さい。

1.浸出性中耳炎


浸出性(しんしゅつせい)中耳炎はお子さんに多く、鼓膜の内側に液体が貯まるので聞こえが悪くなる病気です。急性中耳炎とは異なり、強い痛みや発熱などが無いため気づかれにくいのですが、この病気が両耳に起こり、程度がひどい場合には、呼んでも返事をしないとか、テレビのボリュームを大きくするなどの目立った症状が出てきます。滲出性中耳炎は鼻の具合が悪いときや、いびきをかくお子さんによく見られるアデノイド(鼻の奥と喉の境にある扁桃腺と似た腫れもの)が大きい場合によくおこります。

+ 病気のメカニズム
鼓膜の内側は、鼻の奥と、耳管と呼ばれる管でつながっています。この管をとおって空気が入っていくことにより、丁度よい空気圧に調節されているのですが、鼻が悪かったり、アデノイドが腫れていたりすると、この耳管の中も腫れたり粘液が貯まったりして空気が入って行かなくなります。そうなると鼓膜の内側の粘膜に異常を来し、さらさらのものから粘り気のあるものまで様々な液体が分泌されて貯まるようになるのです。鼓膜の色は一般に濁って見えますが、鼓膜の動きを調べるティンパノメトリーという検査をしないとはっきりしない場合もあります。

+ 治療
まず鼻やアデノイドの状態をよくすること。これだけで液体が抜けて滲出性中耳炎が治ることもありますが、鼻から耳に空気を通す通気という治療を繰り返し行うことが必要になることが多く、それでも直らない場合には鼓膜にメスで小さな傷をつけて、液体を吸い出す方法や、鼓膜にチューブを入れておく方法を行います。長引いたり、体質的にこの病気を繰り返すお子さんも多いのですが、小学3年生くらいになると体の成長に伴って治りやすくなります。ただし放っておくと、ひどく聞こえの悪い状態のままになってしまうこともありますので、面倒がらずに治療を続ける必要があります。

2.副鼻腔炎


副鼻腔炎(ふくびくうえん)は、鼻の周りの骨の中にある副鼻腔という空洞の中に炎症が起きて、膿や粘液の貯まる病気です。膿が蓄えられることから一般に蓄膿症(ちくのうしょう)と呼ばれています。粘り気のある鼻汁が出たり、鼻がつまったり、鼻汁が喉にまわって痰が絡んだような咳が出ることもあります。また頭痛や集中力の低下なども起こりがちです。多くの場合、最初はウイルスによるふつうの鼻風邪がきっかけとなり、二次的に細菌の感染を起こして炎症が副鼻腔まで広がっていって病気ができあがります。

+ 病気のメカニズム
副鼻腔は鼻の中と小さな穴でつながっている顔面骨の中の空洞であり、粘膜といわれる薄い膜が内側の壁を覆っていて、正常な状態では空気で満たされています。副鼻腔炎になると、この粘膜が1 cm以上にも腫れて膿や粘液を多量に分泌します。副鼻腔には空気に代わってこれらが貯まり、小さな穴を通して鼻の中に流れ出てきます。鼻の中を診察すると、上の方にある副鼻腔に続く穴の周囲が腫れて見えることが多いため、副鼻腔炎を疑う根拠になりますが、レントゲン写真を撮ることによって、より確実になります。

+ 治療
基本は鼻の中の腫れをとって鼻汁を除去することにより、副鼻腔に続く穴の周囲をきれいにして副鼻腔内の膿などを出やすくし、また空気が中に入りやすくすることです。耳鼻科医の行う鼻に入れるスプレーや、鼻汁の吸引、ネブライザーはこれらの目的で行うものです。副鼻腔炎の治療では手術がよく知られていますが治療法の進歩により現在では大がかりな手術が必要な患者さんは非常に少なくなってきています。最も有効な治療法はマクロライド系抗生物質の少量長期投与療法です。抗生物質は細菌を殺す薬ですので、通常は一種類につき一週間前後に限って使用するものですが、この場合は細菌を殺す目的ではなく、副鼻腔の粘膜を正常に戻す目的なので特別な使い方をします。通常用いる量の半分以下の量を続ける方法でありこの量では細菌を殺す能力はありませんが副鼻腔の粘膜を正常に戻して副鼻腔炎を治していくには十分なのです。またこの量では数ヶ月間連続服用しても副作用の心配がほとんどなく、副鼻腔炎に対する有効性が極めて高いことが学会で数多く発表されております。鼻の症状がよくなっただけでは副鼻腔炎が治っているわけではなく、治療を止めてしまうとまた同じ様な症状を繰り返し、少しずつ治りにくい状態になってしまうことが多いので、レントゲン写真で異常がなくなるまで続けて治療を行うことが大切です。

3.アレルギー性鼻炎


代表的な症状は、続けてでるくしゃみ、透明で流れ出やすい鼻水、さまざまな程度の鼻づまりですが、全部が揃っているとは限りません。一年中症状の起こり得る通年性のものと、ある季節のみに限って症状のでる季節性のもの(花粉症など)があります。他に、アレルギー性鼻炎とほとんど同じ症状であるにもかかわらずアレルギーの原因が見つからず、温度差によって鼻の粘膜が過敏に反応して症状がでてしまう血管運動性鼻炎もあります。

+ 病気のメカニズム
抗原といわれる様々な物質が鼻の中に吸入されて鼻の粘膜においてアレルギー反応が起こることにより症状が出現します。アレルギー反応の結果生じた化学物質が鼻の粘膜に来ている知覚神経の末端を刺激してくしゃみを起こし、またこの神経が分泌線に働いて鼻水を分泌させ、粘膜中の血管にも働いてむくみを引き起こすことにより鼻の中が腫れて鼻づまりが生じます。このアレルギー反応は誰にでも起こるものではなく、血液の中に、抗原と出会うと反応する抗体という物質を持っている人にだけ起こるのです。抗原となりうる物質は人により様々ですが、通年性ではハウスダストいわれる家の埃やダニであることが比較的多く、季節性のものでは色々な種類の植物の花粉であることが多いようです。

+ 治療
いわゆる体質的な疾患ですので、永久に治療を要しない状態に治すのは難しいものです。体質改善のために抗原を薄めたものを少しずつ注射する方法もありますが、長期間を費やしても効果が不十分なことも多いようです。一方で抗アレルギー剤という内服薬は種々の特徴を持つものがでてきており、多くの患者さんに合う薬が選べるようになってきております。重症の場合でも抗アレルギー剤と、強力な抗アレルギー作用を持つステロイドという薬のスプレー(鼻の中だけで効果を発揮するものがでています)を併用するとかなり改善します。また血液検査で原因が何であるかだけでなく、程度がどのくらいかを見ることにより、どの季節にどのくらいの期間治療すればよいかを調べた上で薬を使用すると効果的です。通年性の場合は抗アレルギー剤の持つアレルギー予防作用を引き出すために2~3ヶ月間続けることが必要です。抗アレルギー剤は長期間内服するように作られているので、ほとんどの場合続けることは問題ありませんが、肝臓などが弱い人の場合は血液検査でチェックを行います。また薬による治療では鼻づまりがどうしても取れない場合がありますが、この場合はレーザーによる鼻粘膜照射が効果的です。鼻水やくしゃみについてはレーザーでは効果が不十分なこともあり、花粉症によく見られる目のかゆみには全く無効ですが、鼻づまりについては非常に高い効果が得られます。レーザー照射がもっとも適している患者さんは通年性で鼻づまりが主症状の方です。花粉症の方で内服薬やスプレーの効果が不十分の方にも効果が期待できますが、花粉症の季節の前にレーザーで鼻の粘膜に刺激を与えてしまうのはお薦めできません。この場合は鼻の調子のよい暖かい時期にレーザー照射を3~4回行っておきます。

4.アテノイド増殖症


鼻の穴から10cm(成人)位奥には後鼻孔と言われる鼻の後ろの穴があり、ここから奥は下方向にノドが広がって気管や食道につながっています。この鼻とノドの境の部位は鼻咽腔といわれ、鼻の裏側であり、ノドの天井にあたるため通常の診察方法では見えない部分です。アデノイドはこの鼻咽腔の上の壁から後ろの壁にかけて存在する扁桃腺と似た組織の腫れ物です。とはいっても大人に成るまでにはアデノイドはほとんど縮んでしまって認められなくなり、多くの場合、問題になるのは子供のうちだけです。4~5歳の子供は最もアデノイドが大きい時期であり、通常でも鼻の後ろの穴の上半分ぐらいをふさぐ大きさになっているものです。

+ 病気のメカニズム
アデノイド増殖症とは、アデノイドが通常の大きさを越えているために、
問題となる症状が出現する状態をいいます。アデノイドが大きいと、鼻の後ろの穴をふさいでしまうために慢性的な鼻づまりが起こります。鼻は正常であるにもかかわらず鼻づまりや口呼吸、いびきが目立つお子さんの大半はアデノイド増殖症と思われます。ひどい場合は睡眠時無呼吸が見られ、脳や全身の正常な発育に悪影響を及ぼすことがあります。また鼻咽腔の両側には左右の耳につながる耳管と言われる管の入口があります。アデノイドが大きいとこの耳管に空気が入りにくくなり、1)で述べた浸出性中耳炎も起こりやすくなるため、聞こえの悪さからアデノイド増殖症が見つかることもあります。これに加えてアデノイドに細菌の感染による炎症(赤く腫れ、熱を持ったり分泌物が出る状態)が起きた場合は、アデノイドは大きく腫れあがり、通常はアデノイドが問題にならない大きさのお子さんでも鼻づまりやいびきが目立つようになります。また高熱が続き、アデノイドからでる分泌物のために痰の絡む咳が続くことも多いのですが、通常の診察方法では腫れている状態が見えないので診断がつきにくいものです。

+ 治療
症状からアデノイド増殖症やアデノイドの細菌感染が疑われた場合はできる限り、鼻から入れる耳鼻咽喉科用ファイバースコープ(内視鏡)によって大きさや炎症の程度を確認します。スプレーによる簡単な麻酔ができますし、ファイバースコープもきわめて細いものですから、多くの場合お子さんでもほとんど苦痛はありません(恐怖感はあるようですが)。アデノイドによる症状と考えられた場合は、抗生剤、炎症止め、粘膜修復剤などを使用することにより、アデノイドの腫れをできるだけ小さくすることを試みます。また鼻の中をきれいにする処置を行うことによりある程度の効果が期待できます。炎症が全くないアデノイド増殖症の場合は、これらの薬の効き目が認められないこともあり、最終的には全身麻酔をかけての簡単な手術的治療が必要になることがあります。この場合は大学病院などに依頼することになりますが、手術を受けたお子さんのほとんどがすやすやと安眠できるようになり、ご両親に喜ばれております。

5.難聴(伝音難聴と感音難聴)


耳は解剖学的に、鼓膜より外の耳の穴(外耳道)や外に出ている部分を外耳と言い、鼓膜の内側の空気が入っている部屋のような部分を中耳、中耳の奥の骨の部分を内耳と言います。長さ3cm位の外耳道の突き当たりには直径約1cmの鼓膜が張っており、 鼓膜の内側には鼓膜の振動を奥に伝えるための耳小骨と言われる3つの連なった骨があります。内耳には聴神経と言われる聞こえの神経が脳から繋がって来ています。音は空気の振動として外耳道から入っていき、鼓膜を振動させ、耳小骨がこの振動を内耳に伝えます。内耳ではこの振動がリンパ液を介して聴神経を刺激し、脳に伝わって音が入ってきたことを感じるのです。難聴を起こす疾患は限りなく多いのですが、音の伝わりが障害される伝音難聴と音を感じる能力が障害される感音難聴、加えてこれらが組み合わさった混合難聴とに分けられます。

+ 伝音難聴のメカニズム
日常よく見られる難聴は、伝音難聴が多いようです。耳垢が貯まり、とれない状態が続いているうちに、耳に水が入ったりすると、コルクの栓の様になって音が鼓膜に届かなくなり聞こえなくなってしまいます。耳掻きで耳掃除をしていて鼓膜に穴を開けてしまうと鼓膜が振動しなくなり、聞こえにくくなります。また風邪を引いて鼻の具合が悪いときには、鼻と耳をつないでいる耳管という空気の通る管の中も腫れてしまいます。すると中耳の中に空気が入らなくなり、空気圧が低いために鼓膜がへこんで振動しにくくなります。この状態を耳管狭窄症と言い、よく見られる軽い伝音難聴です。鼓膜の内側の空気圧が極端に低くなると中耳の中に液体が貯まってくることがあります。これが痛みがほとんどなく聞こえだけが悪くなる浸出性中耳炎【1)参照】で、小児にはよく見られるものです。液体の量と性質によって様々な程度の難聴が起こります。やはり鼻の具合が悪いときに起きる病気に、有名な急性中耳炎があります。鼻の奥の細菌が中耳に入って起こるもので典型的なものは強い耳の痛みと難聴、発熱、時にみみだれが見られます。他に外傷による骨折や出血でも鼓膜や耳小骨に異常が起こり、高度の難聴が起こります。また、外耳や中耳の腫瘍が伝音難聴の原因になっていることもあります。

+ 感音難聴のメカニズム
この種の難聴は鼓膜には異常がないのが普通です。形に現れない機能的な病気なので、各種の聴覚検査が必要となります。数えきれないほど多くの原因による感音難聴がありますが、多くは内耳や聴神経に血流障害などの問題が生じて病気が起こるようです。有名なものには突発難聴があります。精神的、肉体的ストレスのかかっているときに一般には片方の聞こえが突然悪くなり、耳鳴りや耳閉感(耳のふさがった感じ)、音の響く感じを伴うことが多いものです。軽いものから重傷のものまで程度は様々ですが、比較的治りにくい場合が多く、特に治療開始が遅れた場合は難聴だけでなく、耳鳴りも一生治らなくなってしまいますので、これらの症状があった場合はできるだけ早く検査をすることが必要となります。また低い音を感じる聴神経のみが具合が悪くなる急性低音障害型感音難聴は、比較的多く見られる病気です。自覚的な症状は耳の塞がった感じのみのこともあり、受診が遅れてしまいがちですが、この病気は早く治療すればかなり治りやすいものです。めまいを伴って感音難聴が出現する病気も沢山あります。内耳から脳までのほとんどの部分において、聴神経とめまいの神経(前庭神経)は同じ場所を通っているので、ここに起こる様々な病気により感音難聴とめまいが同時に出現するのです。内耳性のめまいで有名なメニエル病や、脳腫瘍の一つである聴神経腫瘍は代表的なものであり、脳梗塞や頭部外傷、その他の脳腫瘍、脳血管の循環障害でも障害部位によってはこれらの症状が起こります。また先天的に内耳の発達がよくないなどで感音難聴がある場合や、遺伝により少しずつ進行する感音難聴もあります。その他ある種の薬物や騒音の影響で感音難聴が起きる場合があり、注意が必要です。最後に高齢者に見られるいわゆる「年のせい」の難聴も、年齢的に聴神経の機能が落ちてくるために起こる感音難聴ですが、この場合は両方の聞こえが同じように少しずつ悪くなるものであり、しっかりとした検査により診断されないと思わぬ病気を見逃してしまうこともあります。

+ 治療
まずはどのような難聴なのかを診断しなければ始まりません。伝音難聴の場合は、形に現れている異常を治すことにより、聴力が戻ることが多いものです。耳管狭窄症や急性の中耳炎では薬物治療と鼻をきれいにする治療(鼻処置)が中心となり、慢性の中耳炎で薬に反応しないものや、外傷、腫瘍などは手術的治療が必要になることもあります。感音難聴のうち特に急激に起こる突発難聴や急性低音障害型感音難聴ではステロイドホルモンという薬が最も有効であり、この薬ぬきではこれらの病気の治療は考えられないほどのものです。長期間使うと副作用が問題になりますが、医師の指示通りに短期間服用する分には非常に価値のある薬なのです。これらの治療を行うには診断が確実でなければ意味がありませんし、また手遅れになるものもありますので、聞こえが悪くなった場合はできるだけ早く検査を受けることが大切です。

6.鼻出血(鼻血)


鼻出血は突然起こるもので、対処に困ることの多い病気です。特に子供の場合は、繰り返し出血することが多いため不安になってしまいがちですが、5分以内に止まるのであればほとんどの場合血液の病気の心配はありません。しかし繰り返しているうちに貧血になることもあり、また日常生活に支障もありますので程度に応じた治療をするべきでしょう。また止血方法が間違っていないのに10分以上出血が続く場合や大人の鼻出血は、血液疾患を始め他の病気が隠れている可能性がありますので十分な検査が必要となります。
+ 病気のメカニズム
鼻の奥行きは大人で10cm位あり、左右の鼻の間には鼻中隔(びちゅうかく)といわれるしきり板があります。この前端に近い部位、すなわち鼻の穴の入口から1~2㎝の所は細い血管が集中しており、鼻出血がもっともおこりやすい部位です。鼻をかむことが多い場合や、鼻をいじる、擦るなどで鼻出血が起こるのは、この鼻中隔前端に機械的刺激が加わり、傷がつくことに拠るのです。傷はさらに刺激が加わらなければ、やがて「かさぶた」ができて自然に治っていきますが、治りかけは「かさぶた」などのために違和感が生じ、再びいじってしまうことが多いものです。従ってアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎、鼻風邪などによって、鼻が出る、つまる、むずむずするなどの症状がある場合に鼻出血が多く見られます。そして鼻をかんだりいじったりしているうちは繰り返し出やすいということになります。以上は最もよく見られる鼻出血の原因であり、子供の場合は90パーセント以上がこれに当てはまります。しかし大人の場合は、この他に別の重大な鼻の病気や、全身疾患が隠れている可能性が多くなります。また出血部位も鼻中隔前端だけでなく、鼻の奥や副鼻腔から出る割合が少し高くなります。この場合は鼻をいじることがなくても出血し、主として喉の方に血液が出ることもあります。特に高齢者では血管がもろくなっており、血圧が高い場合も多いので、反復して出血するだけでなく命にかかわる大出血になることもあります。この他に顔面の打撲でも鼻や副鼻腔などの血管が切れて鼻出血が起こり、また女性の場合は生理に関係して鼻出血が見られる場合もあります。

+ 治療
鼻出血の原因になる部位は何といっても鼻中隔前端が多いわけですから、鼻出血が始まってしまったらまずは人差し指と親指で鼻をつまむと効果的です。l鼻を心臓より高い位置に保った方が血の勢いは弱くなるわけですから、横にならず座ったまま、また血液を飲んで気持が悪くならないために、下を向いて5分位鼻をつまんだままにしていると多くの場合止血します。同時に鼻の上の方(目と目の間)を冷やすのも有効とされています。ティッシュペーパーなどを鼻に詰める場合は、入れたり出したりすると傷を刺激しますので15分以上入れたままにした方がよいようです。ただし取り出すときに血の固まりが剥がれて、再び出血が始まることがあります。繰り返し出血する場合は、耳鼻咽喉科の外来で薬液を塗布するなどの止血処置を受け、もとになるアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などの鼻の病気があればこれを治療する必要があります。鼻中隔前端以外からの出血の場合や、出血時間の長い鼻出血の場合は、血液疾患や高血圧などの全身疾患、あるいは腫瘍などの重大な鼻の病気の可能性もありますので、耳鼻咽喉科では止血処置とともにこれらの病気についての検査を行います。また出血による貧血が疑われる場合は貧血の検査も行い、必要に応じて治療を行うことになります。

7.めまい=眩暈症


めまいとは自分の体や周囲が動いていないのにもかかわらず、動いている感覚になってしまう状態で、吐き気をともなうこともあり、非常に強い不安を伴う病気です。脳に大きな問題が起きたのではないかと思い、脳外科を受診なさる方も多いようです。ふらふらする、ふわふわする、ぐるぐる回るなどめまいの感じ方は色々ですが、めまいの原因も多種多様であり、原因をつきとめた上で治療薬を選ばないと十分な効果が得られないことが多いものです。

+ 病気のメカニズム
めまいのない正常な状態では、めまいに関連する体のいろいろな部分は、機能的に左右のバランスがとれている状態にあります。このバランスが崩れるとめまいを感じるようになるのです。めまいを起こす原因となる代表的な部位としては、まず耳の奥の骨の中にある内耳という場所が重要です。内耳は聞こえの神経とめまいの神経が脳から降りてきているところです。従って内耳に血液の循環障害(流れが悪くなる)などのトラブルが起きると、めまいと同時に難聴や耳鳴り、耳の塞がった感じなどを伴うことが多いものです。しかし、めまいの神経のみが障害され、耳の症状を伴わない内耳性のめまいもあります。内耳が原因となるめまいの代表的疾患として昔から有名なものにメニエル病があります。あまりにも有名であるために、めまいを扱わない医療施設では、患者さんが「めまいがする」と訴えただけで「メニエル病かもしれない」といわれていることが多いようです。メニエル病は耳鳴りや難聴がめまいと一緒に発作的に出現し、数日以内に消失しますが、これが繰り返し起こるというものです。メニエル病を始めとする内耳のみの障害によるめまいの場合は、どんなに症状が強くて動けなくても吐いていても、直接命にかかわることはありません。これに対して脳のめまいに関与する部位、例えば小脳や脳幹といわれる脳の後下方の部位に障害があってめまいが起きる場合は、障害の原因によっては命取りになることもあります。多くの場合は血液の循環障害によって、これらの部位の機能障害が生じてめまいを起こしているので、小脳や脳幹の循環障害を改善する薬を選ぶことにより、めまいが治ります。循環障害の原因も色々あり、首の骨(頸椎)の変形により血管が圧迫されていたり、動脈硬化により血管内が狭くなっていたりしていることが多いようです。しかし、血液が完全に途絶えてしまう脳梗塞や、脳の出血がこれらの部位に起きた場合、また脳腫瘍がこれらの部位を圧迫している場合は、脳外科などでのしかるべき処置が必要となります。ただし、これらによる危険なタイプのめまいの場合は、小脳や脳幹の神経による特徴的な症状(しびれや麻痺、ろれつがまわらないなど)が加わったり、殴られたようなひどい頭痛を伴うことが多いものです。このほか耳鼻咽喉科の外来でよく見られるのは、首の筋肉の緊張が異常に高まることによるめまいです。よろけずに体が正常に動いている時には、動作に応じた全身の筋肉緊張のバランスが無意識のうちにとれているものですが、これが崩れてしまってめまいが起こるものです。肩こりが強い人に多く見られ、筋肉の緊張をほぐす薬が効果的です。他にも自律神経失調によって起こるめまいもあり、貧血や血圧異常、ホルモンの異常、神経疾患、精神疾患、薬の副作用、塗料などの有機溶剤によってもめまいが起こります。また眼疾患や鼻疾患によってもめまい様の症状が見られることがあるようです。

+ 治療
めまいは同じ症状に見えても、原因が同じとは限りません。めまいの程度にかかわらず、しびれや麻痺、ろれつがまわらない、動けないほどの頭痛などを伴う場合は、脳梗塞や脳出血などの可能性がありますので、まず脳外科を受診した方がよいでしょう。その様な症状を伴っていなくて、めまいや吐き気が強いために動けない場合は、症状を緩和するために数日間の点滴が必要になる場合が多いので、まず入院施設のある病院を受診した方がよいでしょう。それ以外の場合は疲れがたまっていたらまずゆっくり休みましょう。めまいの多くは、原因にかかわらず肉体的または精神的な疲れがたまってしまった場合に起こることが多いものです。耳の症状が伴った場合は聴力が落ちてしまうことがありますのでなるべく早く耳鼻咽喉科を受診して検査を受けた方がよいでしょう。耳鼻咽喉科では内耳によるめまいを診察するだけでなく、めまいの原因が何であるかを検査します。特に繰り返し起こるめまいの場合は十分な検査を受けて、原因を追及した上で投薬を受けると効果的です。治療薬は検査結果に従って、内耳の循環改善剤、脳の循環改善剤、めまいに関する神経に働くビタミン剤、代謝賦活剤、筋緊張緩和剤、自律神経安定剤、精神安定剤、ステロイドホルモン、血圧を上げる薬などを使い分けることになります。また原因によっては内科や脳外科などに治療依頼をすることもあります。 

8.花粉症


日本人の5人に一人が罹っていると言われるスギ花粉症は、とても苦しい思いをするにもかかわらず仕事や学校を休むわけにもいかない、実に困った病気です。前述のアレルギー性鼻炎の一つであり、花粉が原因であるために花粉が飛んでいる間だけ症状が出るものです。くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみは代表的な症状ですが、この他に喉の痛みや違和感、耳のかゆみ、発熱、頭痛、頭重感、だるさ、皮膚の発疹など、様々な症状が見られます。市販薬を買って何とか凌いでいる方も多いようですが、花粉が多く飛ぶ年は症状もきつくなるため、医師の診察により症状や体質を考慮して処方された薬剤を使用した方が効果的です。また実際多くの患者さんがこれらの薬剤により快適に過ごすことができております。スギの花粉症が最も有名ですが、春にはスギの他にハンノキ、ヒノキの他、カモガヤ、オオアワガエリなどのイネ科の植物も花粉症の原因となります。秋にはブタクサやヨモギなどの雑草類による花粉症も有名です。他に花粉症ではありませんが、最近昆虫類の死骸から出る物質が主として秋から冬に花粉症と同様の症状を起こすことが解り、注目されております。

+ 病気のメカニズム
何年もの間花粉を体の中に吸い込んでいると、体質によっては、体の中にその花粉が入って来た場合にアレルギーの症状を起こしてしまう抗体という物質が少しずつ出来てしまいます。この場合の花粉を抗原と呼びます。抗体が沢山出来てしまった人は、毎年花粉が飛ぶ季節になると、抗原である花粉を吸い込むことによって抗原と抗体がくっついてアレルギー反応を起こし、鼻や目、喉あるいは全身に様々な症状が出るのです。従って乳児や幼児は長期間スギの花粉を吸ってはいないために花粉症にかかることは多くありません。主として10代から30代に発症することが多いものです。そして高齢者では粘膜の反応性が低下するために症状が起こりにくくなります。ただし、花粉症の発症にはアレルギー体質であることの他にさまざまな環境要因が加わっていると言われ、都会の方が圧倒的に患者さんが多いのです。また、最近では幼児や高齢者の花粉症も増えてきており、環境や食生活の変化によるものと考えられております。鼻のなかで起こるアレルギー反応についての説明はこのページのアレルギー性鼻炎の知識の項をご参照下さい。

+ 治療
まずは確実な診断をつけることから始まります。典型的なスギの花粉症は、毎年2月から4月にだけ上記の症状が見られるので比較的判りやすいのですが、他の鼻の病気でもくしゃみや鼻水、鼻づまりが続くことがありますので注意が必要です。またスギの花粉症かと思っていても、他の春の花粉症も加わっていたり、ほこり、ダニ、化学物質に対するアレルギーを持っている人や温度差に敏感な体質の人が、何らかの要因で症状が急に出ている場合もあります。血液を2mlほど採ることにより、花粉症と思われる症状の原因(花粉の種類またはアレルギーの原因になっている物質)が確実になり、またその患者さんの体の中に原因に反応する抗体の量がどのくらいあるかが6段階で出てきます。これにより1年のうちいつ、どの程度の症状が起こる可能性があるかがおおよそ判ります。また鼻水のなかの好酸球と言われる細胞の量を顕微鏡で調べることにより、その時点での鼻の中のアレルギー反応が強いか否かが判ります。これらを検査して治療を行うといつ頃までどの程度の投薬を行うのが効率的かが見えてきます。効果的な薬剤は、内服薬では各種の抗アレルギー剤です。最近眠気のないものや、鼻づまりに効果の強いもの、一日一回服用で済むものなど、いろいろな特徴を備えたものが出てきており、患者さんの症状と体質に応じて選択するとかなりの効果が得られます。また効果をより確実にするために、鼻の中に噴霧する点鼻薬を併用することも多くあります。これもいろいろな種類がありますが、最も効果的と思われるのは、鼻の中だけで強力な抗アレルギー作用を示すステロイドホルモンの一種です。体に吸収されるとステロイドホルモンではなくなるため、比較的安心して治療を継続できます。しかしこれらの薬剤を使用していても、花粉が非常に多く飛ぶ日には症状を抑えきれないこともあり得ます。そのような時には、内服のステロイドホルモンと抗ヒスタミン剤(アレルギー症状を一時的に抑える薬剤)との合剤を頓服として、症状の強いときに限って使用します。連日長期間にわたって内服するのでなければ、眠気以外の副作用は考えなくてよいでしょう。花粉症の治療は花粉の飛び始める少し前から開始するとそのシーズンの症状が軽くなる傾向がありますので、花粉症と分かっている方は早めの治療をお勧めします。

9.カゼ(感冒)=急性上気道炎


まず上気道という言葉についてご説明します。上気道は以下にご説明する部分をひとまとめにした言い方で、鼻の入口から肺の奥深くに続いている空気の通り道の上の方と言うニュアンスです。

鼻腔
前鼻孔(鼻の穴)から、10cm位後ろにある後鼻孔(鼻の後ろの穴)までのいわゆる鼻の中。

鼻咽腔
後鼻孔の後方にある、鼻とノドの境の部分です。

咽頭
扁桃腺とその周りを指し、一般にノドと言われる部分で、空気の通り道であると同時に食べ物の通り道でもあります。

喉頭
ノドの下の方に位置し、声を出すための声帯という部分を含み、気管の入口にあたります。

気管
喉頭から下方に続く管状の構造で肺の中に入ると二股に分かれ、この部分から先は気管支といいます。気管支から先は下気道と言われます。

カゼという言葉は、あまり明確な定義を持って使われていないようですが、急性上気道炎と同義語と考えられ、主に多くの種類のウィルスが原因で鼻、鼻咽腔、咽頭、喉頭、気管などの上気道の粘膜に軽度の炎症が起こりますが、ウイルスの活動性が弱まることにより7~10日で自然に治癒に至るものを指しています。ただし、上気道の特定の場所に限って強い炎症が認められる場合は上気道炎とは言わず、急性鼻炎、急性喉頭炎などとそれぞれの部位の名前の付いた病名が付けられます。

カゼの症状はくしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの鼻症状、咽頭痛、嚥下痛などの咽頭症状、声のかすれ、咳、痰などの喉頭・気管の症状に加え、倦怠感、発熱、頭痛、筋肉痛、下痢などの全身症状が主なものです。なお、風邪と似た症状の病気は数多くあり、カゼから引き続き起こる病気が耳鼻咽喉科領域にはこれもまた沢山あります。また同じくウイルスによる病気ですが、インフルエンザは上気道の症状よりも全身症状が重症であり、カゼとは異なった対応が必要であるため区別して考える必要があります。