霊犬早太郎の話
昔、遠州のみさくぼという所で一人の六部が宿にはぐれ、とある神社の前宮に入り眠ってしまった。ところが、夜更けに舞台のほうがあまりに賑やかなので、六部が目を覚まして覗いて見ると、姿は定かではないが声だけが
この事、信濃のへえぼう太郎に聞かれてはたまらぬ
と、いう意味の歌を歌っていた。
翌朝、六部がこの村の庄屋の家を訪ねて、よくよく話を聴いてみると庄屋の話に、「何者ともわからないものが、村に出てきて人を食ってしまうので、毎年まわり番で生贄を一人づつあげる」という。そこで六部は、光善寺に行き和尚に一部始終を話し、へえぼう太郎を借りみさくぼに戻った。
生贄をあげる日、へえぼう太郎を箱に入れ神前に置いた。さて、魔物がふたを開けると中から犬が飛び出してきて格闘になった。さすがのへえぼう太郎も疲れてきて弱ってしまったので村人たちが大勢で勢をつけたので、へえぼう太郎は魔物をかみ殺すことができた。
翌日、へえぼう太郎に薬をつけて光前寺に返すことにしたが、途中、へえぼう太郎は息絶えてしまった。
その後、村人たちはそのお礼にと、「般若経六百巻」を光前寺に贈り、これは今も寺宝になっているということです。 |